老人福祉施設研究発表会2日目は、「アサーション・トレーニング ~自分も相手も大事にするコミュニケーションの方法~」と題して、えな・カウンセリングルーム代表 IPI(総合的心理療法研究所)特別研究員の森川早苗氏を広島県からお迎えして講演していただきました。
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 アサーションとは、自分の欲求・気持ち・意見・価値観などを率直に、正直に、その場に適切(相手との関係性で変化)に表現することとされている。そして、それを適切に表現するためには、自分が言いたいことが明確になっている、伝えるためのスキルがあるということが必要となる。アサーション・トレーニングというのは、上手に伝えるためのスキルトレーニングと言われているが、自分が言いたいことは何かということも含めてステップバイステップで行っていくことである。本来は、ベーシックトレーニングでも2日間かかる内容であるため、今回はエッセンスを少し理解していただければと説明されていた。

1.今アサーションが必要とされている背景としては、
①多様性の時代を生き抜くために(当たり前だったものが時代と共に変化し、自分の常識は相手の非常識、それぞれの価値基準を確認しあう必要性)
②メンタルヘルス不全予防のため(精神的な健康は、個人よりも組織の問題としての捉え。助け助けられる関係性の構築)
③よりよい人間関係を作り、職場の活性化のために(忙しさによるコミュニケーション不足・不全、上下関係や力関係を抜きにして話し合える関係性の構築。パフォーマンス(問題解決の課題機能)とメンテナンス(フォローや労いなどのケア)のパワーバランス)
④事故の予防のために(相互コミュニケーションができないと事故が起こる、指示が伝わっているか確認しあう関係性)
⑤心身ともに健やかに人生を送るために(自分が気持ち良く働けないと虐待などストレスをぶつける傾向、ワークライフバランス=働くことと愛すること)
⑥燃え尽きないために(援助職は困っている人がいると自分が辛くても相手を優先する傾向、自分を大事にしながら他者を援助することが大事)。
特に援助職(医療教育福祉など)は、他者の話は聞くが自分のことは言えない傾向にあり、そのためアサーションの重要性が言われている。

2.アサーションとアサーションではない言動の違いとしては、
 ①自分のことを後回しにして、相手を優先する:ノン・アサーティブ
  例 上司は手伝って欲しくても、相手が忙しそうだから頼めず自分でやる
    部下は、上司から頼まれたら個人の用事があっても言わずに引き受ける
 ②自分を優先し、相手を軽視、無視する:攻撃的 
  例 上司は手伝って欲しいことは押し付ける
    部下は上司からの頼みを無理ですと断る 
 ③自分のことをまず考えるが、相手を十分考慮する:アサーティブ
  例 上司は部下に手伝って欲しいことの事情を説明しどうですか?と聞く
    部下は用事があるけどこの位なら大丈夫ですと答える
ノン・アサーティブな言動が続くと、鬱憤がたまり身体に影響したり、離職に繋がったり攻撃的な方向に変わる可能性がある。また、上司にはノン・アサーティブに対応していても、部下には攻撃的など関係性によって変化しやすく、その関係は弱いものへ向かいやすいため最終的には虐待などに繋がっていく。ノン・アサーティブな言動は、いい人だと思われたい、関係を壊したくないなど相手への配慮を考えすぎ自分がどうしたいかということがわからなくなるなどが要因とされている。
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3.アサーティブになる道
 ①自分を大事にする(利用者の権利は考えるが、自分の権利はあまり考えていない。自分を大事にしないとパワハラをされても気がつかない、気がつかない人は人にパワハラをしても気がつかない。人権という柱を持っている人は信頼される上司となる、「人権」という核をしっかり持つこと。)
 ②認知を変える(物の見方を変える。対人援助職の特徴的な「べき」は大事だが、他の人と同じではないということを念頭にまずは聞いてみる。違いを受け入れ歩みよると豊かになっていく。話を聴く、話をしあえる関係性をどう作れるかが重要)

最後に、人はみんな違う、違うことは間違えではない。自分も心地好く生きるということは、自分の思っていることを伝え、相手の思いも聴くことであると締めくくられた。

難しい内容の講演ではありましたが、森川先生は具体例を出しながら理解を深められるよう解説されており、参加者も隣の方と話し合いをしその意見を発表するなどあっという間の2時間の講演となりました。

広報委員 村山