2日目の講義は、『高齢者終末期医療の現状 ー日本と海外の違いー』と題し、前半と後半の2部に分けて講演が行われた。
講義全景2日目

宮本礼子Dr前半は、江別すずらん病院 認知症疾患医療センター長 宮本 礼子 さま。
現在日本の平均寿命は世界でも第2位。ただこれ迄は“いかに長く生きるか”ばかり注目されてきて、“いかに死ぬか”という視点が抜け落ちていた。“いかに死ぬか”“いかに生きるか”と同じであり、それ故個人の考え方、死生観がもっと尊重されても良いのではないかと説明。
老いることは自然であり、命には限りがある。しかし一日でも長く生きてほしい、といった家族の思いもある。ただ、実は自然死の方が、寝たきりで延命医療を受けていた方より、心身の苦痛を受けず穏やかで安らかな時を過ごし最後を迎えれるという。しかしまだ日本では、“死”は悪であり、恐怖であるといった考えがある。高齢者の終末期に、日本で延命を行われる7つの理由を、医療職、家族、環境、思想や制度等の視点から説明。また宮本センター長が関わった多数の複数のケースを紹介しながら、そこから学び得た多くの事から医療職や家族の考え方の変化や、“患者本人の意思を聞くこと”の重要性と“いかに生きるか”等について解説された。

宮本顕二Dr 後半は、北海道中央.労災病院 院長
宮本 顕二 さま
。最初に宮本院長が視察された欧米の、高齢者終末期医療の現状を説明。自然死が当たり前の欧米事情。食事は口から食べられるだけ、飲めるだけ。行われる医療も緩和治療やオーストラリアの国策として実施している「高齢者介護施設における緩和医療ガイドライン」等によるもの。その内容は、「無理に食事をさせず、栄養改善のための積極的介入は倫理上問題がある」とし、「もっとも大切なことは、本人の満足度であり、最良の点滴をする事ではない」といったものである。スウェーデンのあるグループホームで聞いた話では、高齢者の終末期には点滴や経管栄養を行わない。なぜなら「ベッドの上で、点滴で生きていて、何の意味があるの?」と、紹介。日本でも2007年5月に厚労省から「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が出され、当初は世論からなかなか受け入れられなかったが、その後10年の間で理解を得られて来ている。
そういった中、宮本院長より「終末期医療に必要な5つの視点」を説明された他、医学教育と一般に対する「死の教育」の重要性を説明された。
 講師お二方のお話を聞き、参加された方々も、終末期に対し改めて考える時間を持たれた様子であった。

⊱ 広報委員のひとりごと  
 日本だけみては中々気付かなかった事が、世界と比較すると理解しやすくなり、満足いく最期を迎える為に高齢者の終末期医療はどうあるべきかを、改めて気づかされた内容であった。恐らく個々の人生観やその時の取り巻く環境によって、終末期の“いき方”も変わるだろう。その時思う「自分のため」「誰かのため」と理由が様々であっても、自分にとって納得いく“いき方”を望もうと思った。

宮本Dr書籍※今回の講演内容をもっと詳しく知りたい方は、お二人の書籍が出ておりますので、ご紹介します。

 “ 欧米に寝たきり老人はいない
       ー自分で決める人生最後の医療 ”


 著 宮本 顕二 氏・宮本 礼子 氏
 中央公論新社  定価1,400円(税別)

 広報委員 谷 越